1月24日(木)、渋谷LOFT9で「アースデイ東京Open Meeting vol.9」が行われました。「Open Meeting」は、毎年4月に代々木公園で開催されるイベント「アースデイ東京」当日に向けて、さまざまな社会問題を学び、みなさんと一緒に解決のためのアイデアやアクションを考えていこうという取り組み。今回のテーマは「SDGsで目指す、地球1個分の暮らしってどんなもの?」です。
第一部では、WWFジャパンのシニア アドバイザーである石原明子さんが、人口が増えていく世界での生物多様性や自然資本の重要性について話しました〈参照:アースデイ東京Open Meeting vol.9レポート(1)〉。
今回は、Open Meeting vol.9第二部の様子をレポートします。
「これからの社会」を考えるクロストーク
第二部のクロストークでは、「地球1個分の暮らし」をテーマに刺激的なお話が飛び出しました。
ステージに上がったのは、モデレーター役の谷崎 テトラさん(構成作家・プロデューサー)、大久保 勝仁さん(Japan Youth Platform for Sustainability 参画部統括/ UN Major Group for Children & Youth 都市開発ワーキンググループ アジア統括)、石原 明子さん(WWFジャパン シニアアドバイザー)、松島 倫明さん(『WIRED』日本版 編集長)の4名です。
それぞれに異なる分野で活躍する4名が描く、これからの社会の「未来予想図」とはどんなものなのでしょうか。
国連でも注目され始めたユースの存在
谷崎:まずはそれぞれの自己紹介からお願いします。
大久保:僕は「地球1個分の暮らし」に政策面からかかわってきました。国連の活動ではアドボカシー(政策提言)などをしています。国内ではSDGs市民社会ネットワークというSDGsの実現に取り組むNPO・NGOのネットワーク組織でユース事業部の統括をしていて、JYPS(Japan Youth Platform for Sustainability)という若者のプラットフォームでは前事務局長、いまは参画部統括をしています。
これまで国連では、ユース(若者)は宣言のパラグラフのなかでも2行くらいしか出てこないような存在でした。それが僕たちも参加した2017年7月に国連本部で開かれた「ハイレベル政治フォーラム」では、若者の存在がすごく大きく取り扱われることになりました。宣言のなかの段落1つ分を割いて、若者という社会集団のニーズを特殊なものとしてとらえて、彼らを包摂するように努力しましょうという内容が書かれたんです。
2018年9月にも、国連でどう若者に対して行動していくべきなのかを示したプログラム(「Youth2030: The United Nations Youth Strategy」)が発表されています。この内容自体はやや疑問が残るものだったのですが、いまユースに注目する流れがきているのは確かだと思います。
谷崎:大久保くんは25歳なんですよね。いま地球人類の平均年齢は、聞いた話だと30歳に満たないらしいのです。つまり地球という惑星は、かつてない若者の星。それは、すごい希望だと思う。でも、社会はいまだに20世紀につくられた仕組みで動いていて、若者に活躍の場や発言権がほとんどない。
国連ではマルチステークホルダー・プロセスといって、いろいろなセクターの人が発言できるチャンスをつくろうとしていて、とくにSDGsにおいてはユース部門を強化するという流れになっています。それを担っていたのが大久保くんなんですね。
人類は地球意識を持ち始める過程にある
松島:僕は、1993年に創刊された雑誌『WIRED』日本版の編集長をしています。学生時代に「1968年」というテーマでゼミをやって、アースデイ誕生の時期とも重なりますが、ニューレフトの反戦運動やフラワームーブメント(※)とか、そういうカウンターカルチャーとパーソナルコンピューターとの思想的なつながりについて卒論を書きました。
その当時は冷戦時代ですが、コンピューターは巨大で政府とか大企業だけが持っているもので、軍事などに使われていました。でも、そういうビッグプレイヤーだけではなく、一人ひとりがコンピューターの力を利用できるようになれば世界は変わるんじゃないかという思想が、フラワームーブメントなどともつながって、パーソナルコンピューターが生まれていった。『WIRED』もそういう思想につながっている雑誌です。
※ニューレフト:1960年頃、既成左翼運動とは一線を画し、あらたな社会変革、世界革命などをめざして広がった反体制運動
※フラワームーブメント:ベトナム反戦運動から生まれた「ラブ&ピース」を唱えるヒッピーの若者たちの運動
1968年に『ホールアースカタログ』(※)がスチュアート・ブランドによって創刊されたとき、表紙に地球の写真が大きく載りました。それまで公表されていなかった地球の写真をNASAに見せるように求める運動を始めたのが『ホールアースカタログ』の始まりです。
それはなぜかというと、地球の写真を見た瞬間に人間のパーセプション(認識)が変わるとブランドは知っていたからです。たとえば国で区切られていれば隣の国は他者ですが、地球という単位で考えれば1つになる。そういう風にパーセプションを変えることができます。
今日のテーマもそうですが、まだまだ僕らはそのパーセプションを変える過程のなかにいる。人類は器用ではないので、それには100年、200年かかるかもしれない。でも、そういうビッグイシューを担って、それをテクノロジーの側からアプローチするとどういう文脈が紡げるのかと考えるのが、この『WIRED』という雑誌です。
※『Whole Earth Catalog』:自給自足に関する情報や商品を掲載し、ヒッピーカルチャ―に大きな影響を与えた伝説的な雑誌。
谷崎:『WIRED』というのは、実は『ホールアースカタログ』直系の雑誌なんですよね。僕たちは本当に大きなシフトの時代にあって、この「地球」という意識(アースコンシャス)が生まれたことと、そしてインターネットが生まれたことが大きい。
15年後の世界は良くなると思うか?
松島:「次の15年で世界の人々の生活環境は良くなるか、悪くなるか?」という問いに対する、世界28カ国の人々の答えを一覧にしたものがあるのですが、アフリカやインドでは60%を超える人が良くなると言っているのに対して、その割合は先進国になるほど下がっていき、日本では10%の人しか15年後がよくなると思っていない。
グローバリゼーションが進むと全体の平均値に収れんしていくので、先進国のほうが悲観的なのは理に適ってはいるのですが、10%の人しかよくなると思っていない国で前向きなことは起こらないよな、という危機感を『WIRED』ではもっています。
ドイツの哲学者・ニーチェの言葉に「過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える」というのがあるのですが、未来をどう見通すのかということ自体が、それを考えているいまこの瞬間の僕らを規定するということがある。
つまり、10%の人しか未来がよくなると思っていない社会にいたら、そう思っている僕らの現在の社会もそれに規定されてしまう。僕らがコミットすれば世の中をプラスに変えられると思えなければ、大きなイノベーションは起こらないと思う。そのためには、この数字を変えるのが我々のミッションだと考えています。
谷崎:WWFジャパン シニアアドバイザーの石原さんには第一部にもご登壇いただきました。引き続きよろしくお願いします。
谷崎:では、僕の自己紹介をしますと、TV・ラジオの放送作家を30年やってきて、そのうち25年は環境番組をつくってきました。いまは、京都造形芸術大学でプロデュース論を教えています。アースデイ東京はファウンダーとして立ち上げにかかわりました。
旅をきっかけに先住民の生き方を学んだことがきっかけになり、環境破壊や貧困、地球変動を取材して番組をつくり始めたのですが、危機的な状況を取り上げるだけでは、なかなか聞いてもらえない。それで「こうしたらいいよ」というグッドプラクティスを伝えるようになりました。持続可能なライフスタイルを探して、世界中のエコビレッジをまわって、自然エネルギーとか、地域通貨とか、協同組合などの知恵を学んでいきました。
そうやっているうちに、2001年に仲間たちとアースデイ東京を始めたり、2010年にワールドシフト・ネットワーク・ジャパン(WorldShift NetworkJapan)というNPOを立ち上げりしたんです。「ワールドシフト」とはシステム哲学者・アーヴィン・ラズロ博士の言葉で、この世界は変わるっていうことを一言で表す単語。このNPOは「あなたはどんな世界をつくりたいですか」ということを問いかけるNPOです。
SDGs達成に必要なのはイノベーション
谷崎:いまのままの消費を続けている限り、人類は81億人に達した時点でブレイクダウン(衰退)するというシミュレーションがあります。だけど、新しいテクノロジーやマインドセットによっては、100億人がこの地球で生きていける。資源を奪い合っているから足りないけど、分け合えば余らせることもできる。
ブレイクスルー(突破)かブレイクダウン(衰退)かの二者択一で、ブレイクスルーにはシフトが必要です。それも何か1つを変えるんじゃなくて、政治も、社会も、教育、医療、メディア、衣食住も全部変えなくちゃいけない。そのための指標になるのがSDGsです。
SDGsのゴールは決まっていても、やり方が決まっていない。新しいやり方を見つけた人たちが、次の時代の価値観をつくっていく。そのことをイノベーションと呼びます。どこかのNGOだけが頑張ってやるものではない。わたしは行政のことをやる、生態系のことをやる、経済のことをやると、一人ひとりが宣言することでつながっていく。自分ができる領域はたくさんではないかもしれないけど、それぞれがゆるやかにつながることで世界が変わっていくと思っています。
世界の食糧は分け与えれば十分足りる
谷崎:さて、ここからはテーマを決めて、社会がどうなっていくのかを話してみたいと思います。まずは、会場から「食べもの」というテーマのリクエストがありました。たとえば世界では、いまこの瞬間にも貧困で亡くなる子どもがいるけど、じゃあ地球上の食べものが足りないのかというとそうではない。日本の食品ロスは年間約646万トンもあるそうです。
大久保:国連WFP(世界食糧計画)の統計(※)によると、食べものの生産量は世界の人口を満たすために十分だと言われています。それでも世界の飢餓人口が増えているのは、食べものの分配の仕方に問題がある。なんでそうなるのでしょうか。
※THE STATE OF FOOD SECURITY AND NUTRITION IN THE WORLD 2018
谷崎:たとえば、いまここに100人いて、うどんが100杯分あるとします。1人何杯もらってもよくて、早い者勝ちだとなれば、わっと集まりますよね。最初の人が20杯、次に10杯と取っていったら、全員に行き渡る前になくなります。そして、たくさんもらった人が、安い値段で売ったり、自分の命令を聞く人にあげたりする。それが資本主義だし、消費社会の現状です。そのマインドを変えて、みんなで分けようとなるかどうかがチャレンジです。
大久保:でも、そういった生きるために必要な要素へのアクセスを保証することって、本来は国家がやる役割ではないのでしょうか? そして、いまマインドセットの話がでましたが、その切り替えをいかにテクノロジーで生み出すのかもこれからの課題だと感じています。
松島:うどんをどのぐらいの量とれば全員に行き渡るのかという最適化の計算は、人間よりコンピューターのほうが得意。もしかしたらAIのほうが、個人や政府が仕切るよりも、みんなが信頼できるような最適な分配ができるかもしれない。ただ、そのAIを誰が管理しているのかが問題です。
食料や資源を最適に分け合えるのは誰か?
松島:いま国家というものは、身近な問題を扱うには大きすぎ、大きな問題を扱うには小さすぎると言われています。例えば漁獲量の減少問題も気候変動の問題も国単位で考えらえるものではないし、AIやバイオテクノロジーといった新しい技術の影響は、国単位ではなく世界中に一気に及びます。巨視的に最適配分問題を考える主体がどこになるのかは、これから考えないといけない。
あえてカウンターの立場をとって言うなら、GAFA(※)みたいに国よりも大きなプラットフォーム企業がありますよね。そこでは、まさに大久保さんが言うような20代の若者が能力を生かして活躍しているわけです。こうした企業が世界百数十カ国との意見調整などしないで、いきなりサービスとして「食料の最適化ってこれですよ」とやるのが早いのかもしれない。
いまは、世界中の頭のいい若者は、いかに自社のサイトをクリックさせるかに能力を費やしているけど、サービスがより公共的なものに変わっていけば、彼らにできることがいっぱいあると思います。
※GAFA:グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の4社の頭文字
石原:WWFでは、たとえば持続可能な資源の使い方など、どの部分に基準を置くかを決めるまでに、長い時間がかかっています。市民、政府、現地で資源を採取している人など、いろいろな人たちの考え方や価値観があるなかで、みんなが満足できる最適な基準が決まるまでには、5年くらいかかることもある。ただ、それがないと誰も満足して取り組む気にはならないというのもあります。それは非常にもどかしいところ。
谷崎:さっきのうどんの比喩の解決方法ですが、僕は情報をみんなにちゃんと与えることだと思います。「ここに100人います。たくさんとってもいいけど、とりあえずみんなで分け合いましょう。明日もまだ、うどんは十分ありますよ」と言えば、暴動は起きない。「1人一杯だけ」と社会的制約で決めることもできるけど、それは最後の最後。そうしなくても、僕たちはできると思う。
「見える化」することが最適化には重要。まさにWWFさんが地道に調査してきたような、森の状況などの情報がネットで可視化されて、それぞれのライフスタイルにつなぐことができたら、それが最適化ということになる。たとえばパルプをつくるのでも、森を切ったあとに植林して、それを地域に還元して……とやれば当然価格が上がります。切りっぱなしのほうが安い。
でも、価格が高くなっても、それは必要なことだというコンセンサスができれば切りっぱなしにはできない。着ている服、身のまわりのものすべて、そういう風にやっていくことなのかなって思います。
「お金より時間があったほうが幸せ」
石原:私が地球1個分の暮らしの実現を考えるときに大事だと思うテーマは、「時間の使い方」です。時間がないから手早く食べられるもの、できるものを買ってしまう。昔は、古くなったセーターをほどいて編みなおしていましたよね。シャツの襟が擦れたら反対側にして付け直していた。
でも、いまは時間がなくて、そんなことはできない。もし15時くらいに仕事が終われば、もっと丁寧な買いものができるのにと思います。私たちは忙しい忙しいと言って、なんだか貧しい暮らしをしているような気がします。
谷崎:時間は、全部にかかわってくるものですね。ファッションも、食べものも。早くて安いものはどこかにひずみを生む。地球にも生産地にも雇用にも。
石原:お金が少ししかなくても、時間があったほうが幸せという価値観になれば、「地球1個分の暮らし」が実現できるんじゃないでしょうか。
松島:『WIRED』としては「地球1個分の暮らし」ではなく、地球をいかにしたら2個、3個にできるのかということもあえて考えてみたい。自分の生活を地球1個分に縮小する一方で、地球を2個分にしていく。それは、火星に行くことかもしれないし、空気から食料をつくるテクノロジーかもしれない。そうやって縮小と革新のベクトルをパラレルに考えていかないと、息苦しさが出てくると思うんですね。
谷崎:松島さんが手掛けたジェレミー・リフキンの『限界費用ゼロ社会』という本では、どんどんコストが安くなってゼロに近づいていく、それによって企業は利益をあげられなくなり、雇用が厳しくなっていくということが書かれています。それはとらえようによってはネガティブなんだけど、テクノロジーによって我々の生産性は落ちなくて、物質的な豊かさは担保されるんだと。仕事の量は半分で済むので、働く量が減って余暇ができるということでもある。
「社会は変わらない」とよく言われるけど、「#MeToo」でセクハラやパワハラの概念が広がったように、1年、2年でも価値観は変わっていきます。次の10年、20年で、分け合えば全員にちゃんと食べものが行き渡るんだとか、うまくテクノロジーを使えば余暇を楽しんで生きていけるんだという認識が広がっていけば、「地球1個分の暮らし」が実現できるんじゃないでしょうか。そういうコンセンサスを作っていくのがアースデイという場だったり、SDGsという指標だったりするのだと思います。
未来を描き、現在の暮らしを見つめ直す
「80億人を支える地球は1個しかない」という第一部でのWWFジャパンの石原さんによるトークに始まり、第二部では、これから先の社会のあり方について様々な意見を出し合った今回のOpenMeetingVol .9 。
私たちの意識は「地球」をキーワードに変化していく途中にあり、新しいテクノロジーも次々と生まれています。決してネガティブなニュースばかりではありません。岐路に立つ私たちに必要なのは、ワクワクするような「未来」を描き、そこに向かって一人ひとりが「現在」のライフスタイルを見つめ直すこと。
今日から一緒に「地球1個分の暮らし」を目指していきましょう。