知る・学ぶ

アースデイ東京2017・先どりインタビューVol.3 アースデイ東京に「修行空間」が出現!?

4月22・23日に開催される「アースデイ東京2017」。その企画の一部をいち早く紹介するとともに、運営にかかわる人の想いを伝えます。 今回は、「Earth禅堂」について、Earth禅堂プロジェクトのメンバーで、曹洞宗の僧侶である宇野全智さんにうかがいました。

期間限定の「サテライト道場」

――アースデイ東京には、今回が初参加ですね。「Earth禅堂」という名前にも興味をひかれますが、どんな企画なのでしょうか。

「禅堂」とは、禅宗の修行道場のことです。アースデイ東京に、期間限定の修行空間ができるイメージで、つまり「サテライト道場」ですね(笑)。禅の思想や価値観は、環境問題を考えるうえでも役に立つもの。修行体験を通じて、禅の考え方を知っていただければと思っています。

宇野さま顔写真1
――メンバーは、みなさん曹洞宗の僧侶ということですが、まずは曹洞宗について、少し教えていただけますか?

禅宗のひとつで、いまから800年ほど前の鎌倉時代に、道元(どうげん)禅師が中国から日本に「正伝の仏法」を伝え、瑩山(けいざん)禅師が全国に広げたのが曹洞宗の始まりです。全国に1万5千ほどの寺院があります。

アップル社の共同設立者であるスティーブ・ジョブズが、曹洞宗のお坊さんに師事していたことで、アメリカのIT企業など、海外で高い関心をもたれるようになりました。いわゆる「ZEN」です。それが逆輸入される形で、最近は日本でも非常に注目されています。

――お寺や仏教というと敷居が高い感じもあるのですが、曹洞宗では、「朝活禅」や法要ライブなど、一般の人に向けたユニークな活動をされているんですね。

いま多くの方が禅に興味をもってくれています。さまざまな機会を通じて、寺や仏教を身近に感じてもらうことも、禅の思想を知ってもらうには大事なことだと思っています。

昨年行われた「曹洞宗法要ライブ『法悦』」には、なんとプロモーションムービーも!

「自然」「私」「仏」は同じもの

――禅の考え方とアースデイのテーマである地球環境は、どうつながるのでしょうか?

道元禅師が残した和歌に、「峰の色、渓の響きも皆ながら わが釈迦牟尼(しゃかむに)の声と姿と」というものがあります。山の紅葉や新緑の色、谷に響きわたる川や小鳥の声、そういうものがすべてお釈迦さまの声であり、姿だという感覚です。「自然」と「私」と「仏」を別々に考えるのではなく、私のなかにも仏がいて、自然の中にも仏がいて、同じものとしてとらえます。自然も私も同じ。お釈迦さまを大事にするように、自然を受け止め感じるのです。そういう考え方が、物を無駄にしない、リユースをする、ということにもつながっていきます。

宇野さま顔写真2

たとえば、アースデイ東京では、食器を洗って再利用しますよね。禅の修行道場では、それぞれが「応量器(おうりょうき)」と呼ばれる、いわゆる「マイ食器」を持っています。そこに自分が必要な量に応じて給仕してもらい、全部食べ切る。最後にお湯を注いで、食器を洗うと同時にお湯もいただきます。そして布巾で拭いて片づける。すべてが食事のなかで完結するのです。こうした作法は、アースデイが目指していることと、すごく近いのではないかと感じています。

――なるほど。「自然も私も同じ」という禅の考え方を知ることで、環境へのアプローチも変わってくるかもしれません。実際のお坊さんたちは、どんな修行をされているのですか?

曹洞宗では一人前の僧侶になるには、修行道場で決められた期間の修行生活を送らなければなりません。ちなみに私は、福井県にある大本山永平寺で一年間の修行生活を過ごしました。修行といっても、滝に打たれるとか、断食などの派手なことはしません。根本にあるのは坐禅ですが、生活のすべてが修行です。

歯を磨くこと、顔を洗うこと、廊下を掃除すること、食事をすること、お手洗いを使うこと、そうした一つひとつを丁寧に心がけることで、日常生活そのものが自分を成長させてくれる修行になると捉えるのです。

また、こうした修行の根幹には、「全ての生きとし生けるものの、安寧を祈り、願う心」があります。たとえば、食事の際に自分によそわれたご飯から、7粒の米を供養に出す「生飯(さば)」という作法があります。それを係の修行僧が集めて、小鳥などに分けます。自分が食べる前に「お先にどうぞ」と、おすそ分けから始まる。他の幸せを願う祈りが、あらゆる場面にちりばめられているのです。

――それは素敵な作法ですね。当日の修行体験としては、具体的にどんなことを予定しているのでしょうか?

まずは、「いす坐禅」を体験してほしいと思っています。椅子に座って行うので、どなたでも気軽にできます。当日は5~6人のお坊さんが交代でいて、呼吸や姿勢を教えながらいっしょに坐禅をします。

事務局スタッフも体験。「意外と心地いいものでしょ?」

事務局スタッフも体験。「意外と心地いいものでしょ?」

効率や欲望からいったん離れてみる

――坐禅をすることには、どういう意味があるでしょうか?

いろいろな見方がありますが、アースデイ東京で行う意味として考えたときには、自分の欲望からいったん離れるというのが大きいと思います。普段の生活は、効率重視ですよね。効率と欲望はすごく近いところにあるもの。坐禅によってそうしたものから離れることで、「生かされている自分」を感じることができます。「生きているな、生かされているな、つながっているな」ということが、坐禅を通じて感じられるのです。

――あの…変な質問かもしれませんが、修行をしたお坊さんは、欲に動かされるとか不安になることはないのでしょうか?

いえいえ、そんなことはありませんよ。腹も立つし、おなかもすきます。でも、そこに執着せず、リセットする方法を知っています。こだわって思い悩んでしまう思考を止める。そこで初めて正しく自己を見つめることになる。それが禅です。

現代社会は情報が多いので、どうしても外に気がいってしまいます。自分の足元が見えていないからグラグラする。日常生活で自分を見つめなおす時間なんて、ほとんどありませんよね。だから、いま多くの人に禅が求められているのだろうと思います。

取材に同席してくださった宇野さん、関根さん、安藤さん

取材に同席してくださった宇野さん、関根さん、安藤さん

――立ち止まることで、環境と自分のつながりにも新しい気づきがありそうですね。

そうだと思います。白紙を目の前に置いて、「白紙の中に何が見えますか?」という禅問答をすることがあります。白紙ですから、目では何も見えません。でも、紙は木から出来ていると考えると、そこに木を感じることができる。「木は一本で立っていたのだろうか?」と考えると、林が見え、森が見え、山が見えてくる。峰の色、渓の響きが聞こえて、お釈迦さまの姿が、白紙一枚から現れてきます。これは白紙だけではなく、何でもそうです。

玄関に置かれた札。「足元を見て履物を揃える」と、「自分の足元(自己)を省みる」の2つの意味がとれる

玄関に置かれた札。「足元を見て履物を揃える」と、「自分の足元(自己)を省みる」の2つの意味がとれる

禅の考えを知ることで、食や生活が変わる

――「いす坐禅」のほかには?

「禅と食」をテーマにした、「五観の偈」の写経ワークショップを考えています。禅の考え方で日常に一番活かしやすいのは、「食」ではないでしょうか。禅宗では、食事を作ること、頂くことを、とても大切な修行だと考えてきたのです。

「五観の偈」とは、食事の前に唱える5つのお唱えごと。そのなかに、「一つには、功の多少を計(はか)り、彼の来処を量(はか)る」というのがありますが、「食事がどこからどのように来たのか、いかに多くの人々の手間や苦労があったのかを見定めて、深く思いをめぐらせながらいただきます」という意味です。すごくエシカルな考え方ですよね。

透ける紙の上から文字をなぞる。「『無心になること』を意識しない。それが無心で書くということです」。うーむ…

透ける紙の上から文字をなぞる。「『無心になること』を意識しない。それが無心で書くということです」。うーむ…

また、匂い袋をつくるワークショップもあります。お寺には欠かせないお香ですが、産地には紛争地帯も多く、価格が高騰するなど経済の歪みが出てきています。そうした話もしたいと思っています。

仏教で「熏習(くんじゅう)」といいますが、毎日お香をつかっていると、部屋や着物に香りが染み込みます。それと同じように、自分がやった行いが、良くも悪くも自分に染み込むと考えるのです。いいお香を嗅ぐことで、自分自身の行いを考えるきっかけにもなります。

ちょっとマニアックなところでは(笑)、お線香を燃やしたあとの香炉を整える「香炉なおし」ワークショップもあります。お坊さんにとっては日常的な作法ですが、やったことのある人は少ないんじゃないでしょうか。

※ワークショップには、予約制のものと、当日参加が可能なものがあります。詳細やスケジュールは、「Earth禅堂」のサイト(http://www.sotozen-net.or.jp/earth_zendo)で紹介しています。

――どれも一つひとつに意味があるんですね。

修行体験は、禅の価値観を知る入り口です。曹洞宗では、「知的理解」と「体験的理解」が一致することに大きな価値があると考えます。体験するだけでなく、そこにどういう意味があるのかも知って、持って帰ってもらえればうれしいです。

今回の「アースデイ東京2017」のテーマは、「Lifestyle Shift、Now」ということですが、禅の考えを知ることで、日々の食事や生活の意識が変わってきます。それが結果として、地球環境のためにもなっていくと思います。私たちも、アースデイ東京に参加することで、いろいろな方と出会えることを楽しみにしています。

アースデイ東京2017開催します!