料理研究家の服部幸應先生の突然のご逝去に、謹んでお悔やみを申し上げます。
服部幸應先生は、多くのテレビ番組に出演されるとともに、料理家、教育者でありながら、地球環境保護にも尽力されていました。そんな服部幸應先生が残してくださった未来の食・環境保全に対してのメッセージを多くの方に届けられたらという想いを込め、2023年に行われたアースデイグローバルサミットプレゼンツ「国際生きもの多様性の日キャンペーン2023」子ども生きもの多様性オンライン会議トークセッションの基調講演にてご登壇いただいた際のメッセージをまとめました。ぜひ、ご覧ください。
「皆さん、食べ物を大事にしましょう。」
服部幸應です。いのちいただきます。
我々は普段から、「いただきます」と言います。これは動植物の命をいただくことです。命は大事にしなければなりません。我々は時々捨ててしまったり、適当に扱ったりします。それをなくしたい思いも含めて、皆さんも意識していただきたいです。
食事の最後に「ごちそうさま」と言います。昔からお店があるわけではなく、野へ山へ出て様々なものを捕ってきます。よく集めていただいた、料理してくださいました、本当にごちそうさまでした、ありがとうございました。という意味です。これは、仏教にも通じ、命がなぜ大切なのかを知りながらいただくこと、今日は皆さんに改めてそれを知っていただきたく、お話したいと思います。
食育基本法は、2005年(平成17年)6月17日に公布されました。この法律は三つの柱からできています。
Diversity、生物多様性。人類の多様性も食べ物の多様性も、私たちは考えながら生きなければならないことを表しています。
Ecology、環境保全性。周りを見ると多くの環境破壊があります。食品に関しては、食品添加物や農薬の付着した食べ物です。これらをきれいに、良くするように行動しなければならないことを表しています。
Sustainability、持続可能性。今から手を打たなければならない。これは皆さんの役目です。
食育基本法はこの3つの柱ででき、ピクトグラム(視覚的な図記号で情報を伝達する案内記号)に表すと1〜12まで広がります。誰にでもわかりやすいこれらを見て、行動してもらいたいです。
小学校4年生のとき、近所の子供たちと家近くの沼でよくザリガニやフナを捕ったりして遊んでいました。ある日、おじさんが缶から油を沼に流していました。「おじさん、そういうことをやっちゃダメだよ」と言っても、うるさいと言われて。翌朝、沼に行くと、表面が油で魚たちが浮かんでいました。当時日本はオリンピック第1回目のために、モノを多く生産して世界に発信させようと、先進国を目指し工業国として動き始めていたころです。工場など煙突からは煙が出て、天の川がきれいだった空は、煤煙で汚れ、見えなくなりました。
大学2年の時には、生物学者レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読みました。『カリフォルニア州のクレアレイクは、子供たちが遊び、夏はボート遊びなど豊かな湖。ところが、ある時から鳥の異変や、魚が浮かんでくる。当時、ブヨが大量発生し人を刺すために、DDT (殺虫剤)を撒かざるを得ない事情だった。7000分の1に希釈して撒くと、3年半程ブヨは発生しない。ところが、虫に耐性ができ、また出てくる。今度は5000分の1に濃縮したものを撒く。けれど1年半ももたない。だから、1年ごとに継続して撒いていた。1957年夏、渡り鳥たちが変死している。解剖すると、肝臓や筋肉の中からDDTが出てくる。』レイチェル・カーソンは政府に危機を提言するも、政府は彼女の言動を抑えます。
彼女はその後亡くなりますが、生物学者が集まり反対運動をします。アメリカではこの反対が通り、DDTの使用がなくなります。彼女のような人がいて、それを支持する人たちがでて初めて世の中が動きます。日本は素晴らしい環境です。それをもっと大事にしたく食育の推進をしています。皆さんにも協力していただき、この会議もうまく進むと嬉しくと思います。
皆さん、食べ物を大事にしましょう。
服部幸應先生の貢献や精神を胸に、未来へ
この会議の中で、服部幸應先生のメッセージは、命に感謝し、持続可能な食文化と環境保全に取り組むことの重要性を訴えていました。食事の際に「いただきます」や「ごちそうさま」と言うことが、命への敬意を表し、人間と自然のつながりについて改めて考える大切な接点であることを私たちに伝えてくださいました。
子供時代に経験した、沼の魚が死んでいたエピソードや、大学時代にレイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読んだこと。環境問題の深刻さを、単なる料理家としてではなく、一人の人間として常に意識して生きていらしたことが伝わります。食育基本法制定に尽力し、次世代へあたたかく関心を示してくださり、私たちに、声を上げることで世の中を動かす力があることを示してくださいました。
「いただきます」「ごちそうさま」の言葉。日本の環境が素晴らしいこと、日本の食文化、日本人だからこそ、考えられる環境保全もあると言われているように感じました。未来を守るためにどう行動すべきか考えるヒントを、日常の言葉で、分かりやすく与えてくださったように思います。
服部先生のご逝去は、日本だけでなく世界中にも大きな悲しみとなりました。服部先生の貢献や精神は、私たちが命を大切にし、持続可能な未来を見据え行動を取るための指標となり生き続けます。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。