アースデイ東京の楽しみ方はライブや出展だけではありません。2日間にわたって、さまざまなテーマでトークが行われています。今回は4月21日、22日に開催されたオフィシャルトークテントでのプログラムから、トークの一部を紹介。オフィシャルテントで行われたOzone合同会社プロデュースの「SDGsトーク」では、企業人、NPOスタッフ、起業家など、さまざまな分野で活動するゲストが、SDGs達成に向けてどんなチャレンジの可能性があるかを語ってくれました。
【テーマ】「SDGsと企業~SDGsがポージングで終わらないために」
【ゲスト】
近藤ヒデノリ(博報堂クリエイティブプロデューサー/「Local.Biz」編集長)
松浦麻子(WWFジャパン)
山下悠一(Blue Soil Consulting代表)
【案内役】
雨宮優(Ozone合同会社代表社員/サイレントフェス®プロデューサー)
柿内正午(Oxygenライター)
※この記事は当日のトーク内容を一部編集したものです
■みんなで一歩を進めるのがSDGs
雨宮:ハッピーアースデイ! 今日はSDGsをテーマに2部に分けてトークをしていきます。#1では「SDGsと企業」というテーマにかかわる3人に出演してもらって話を伺っていきます。
そもそもSDGsは何なのかという話をしておきたいのですが、SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略で、2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」です。「貧困をなくそう」とか「飢餓をゼロに」とか、それぞれ1~17まで掲げた目標に、さらに細かい全169のターゲットがあります。これを国連に加盟する193か国で2030年までに達成していきましょうというものです。
どの国がどれくらい出来ているのかみたいなものも、アーカイブ化して発表されています。いままで「世界平和」とかぼんやりしていた概念が数値化して測られるようになってきた。そういう物差しとしても使っていけるものです。これまでのような後進国を先進国が助けるという物語ではなく、先進国にも課題があって全地球人みんなで一歩を進める必要があると言っているのが、SDGsの特徴になっています。
いま、世界的にもいろんな企業や行政でSDGsの取り組みがされています。「SDGsをやっていますよ」と言うと、社会から「いい感じの企業」という風に思われるわけだけど、本質的な部分で事業内容にSDGsがちゃんとインクルージョンされないままポージングで終わってしまうということがある。CSRが流行ったときのようなレベルで、SDGsが消費されてしまう可能性があります。
そこで今回のトークでは、SDGsをポージングで終わらせないために、企業というセクターとSDGsが、どういうかかわり、どういう指標をもっていけばいいのかをうかがっていきたいと思います。まずは、3人のみなさんの自己紹介からお願いします。
松浦: WWFジャパンの松浦麻子と申します。WWFはインターナショナルなネットワークをもつ環境保全団体で、スイスに本部があります。WWFジャパンは、「地球温暖化を防ぐ」「持続可能な社会をつくる」「野生生物を守る」「森や海を守る」という4つのテーマを掲げています。
実際にSDGsと紐づきそう活動は何かというと、ひとつには認証制度があります。人にも環境にもやさしい消費を認知してもらうための認証マークというのがあり、森林に関する認証の「FSC®」、海のエコラベル「MSC」、養殖版・海のエコラベル「ASC」、パーム油に関するエコラベル「RSPO」といったものを後押ししています。
たとえば、インドネシアの森林では、違法伐採が行われたり、元々の熱帯林を野焼きなどをして人間に都合のいい木だけを植える大規模プランテーションがつくられています。そうすると、単一の木しか生えておらず、もともと棲んでいた動物が棲めない森になってしまう。それを防ぐために、動物が住んでいるところは侵さず、必要な分だけを伐り、一度伐ったら計画的に管理するなどといったルールをたてて、かつ働いている人たちの就労環境も整えていることを担保しているのが「FSC」マークです。
このFSCマークの商品を買うことで、「15 陸の豊かさを守る」「12 つくる責任 つかう責任」など、SDGsのゴールが3つも4つも担保できる。こうした認証マークをみなさんに認知してほしいと、企業や小売りを後押しする活動をしています。
■モデルケースをつくるのはこれから
近藤:近藤ヒデノリと言います。広告会社の博報堂で二十数年働いていますが、最近力をいれているのは「Local.Biz」で、博報堂の地域9拠点をたばねて、いっしょにローカル経済を盛り上がていこうというプラットフォームをつくりました。ローカルビジネスを成功させるヒントをシェアしつつ、僕らがハブとなって企業や自治体、マスメディアをつなぎ、ローカル経済を元気にしていければと活動しています。
そのなかで、今年2月に「慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ」の主催による「SDGsと地方創生」をテーマにしたシンポジウムのレポートも掲載していますが、SDGsはまさにこれからなんだなという気がしています。これまではバラバラに活動してきたのが、SDGsという世界共通のわかりやすい目標がひとつ出来たことで、それをツールにすると一緒に何かしやすいぞ、これは使えるんじゃないか、ということで動き始めているところなのだと思います。
ちなみに、SDGsのマークの日本語訳は弊社のコピーライターがプロボノでやったもので、ほんとはこういうのもお金がもらえるといいとは思いますが(笑)、いろんな企業や自治体がSDGsという共通目標のもと協力していくのが、これからのひとつの形なのだと感じています。
僕らLocal.Bizは、その「つなぎ役」になれればいいと思っていて、企業とか自治体と一緒に地域の社会課題をビジネスとして成立させながら解決していくプロジェクトをどんどん作っていきたい。いまはそのモデルケースをつくっていこうと、不動産会社や化粧品会社などと動き始めているところです。会社内でも少しずつ「これからはSDGsだ」と言われ始めているけど、まだモデルケースが少ないので、それが形になることで広がっていけばいいなと思っています。
山下:僕は、自称・他称「ヒッピー系コンサルタント」ですが、12年間、外資系コンサルティング会社にいました。1990年くらいからコンサル会社が世界を席巻していて、大企業の戦略のほとんどの裏にはコンサル会社がいて、新聞に出るような新しい変革の多くはコンサルが仕掛けています。僕は、世界最大規模のコンサル会社にいたんですが、経済をよくしていけば社会がよくなるだろうと思ってずっとやってきました。大手食品関係の製造会社、コンビニ、自動車や化粧品会社など、そういったところの戦略、人材の育成、IT導入、アウトソーシングまで幅広くやっていましたが、最終的に3年前に会社を辞めました。
たとえば2ℓのペットボトルの水は、売れば売るほど会社は赤字になるんです。でも、企業としては売れるから売らざるを得なくてバンバン売ります。過去の企業論理でいくと、売上やシェアを他企業とせめぎ合っているなかで、意地のために売りさばかないといけない。シェアトップになっても、利益創出は難しく、営業は価格のせめぎ合いで疲弊する……。プラスチック容器を大量につくり、環境にも負荷をかけている。しかも本来、水は蛇口をひねれば出てくるわけですし、森に行けばいくらでも飲めます。「一体、誰が得しているんだっけ?」みたいなことになっている。
僕は、たとえばそういう企業の営業の人たちに「ガンガン売りましょう」という研修をやっていたんです。そこにものすごい苦しいジレンマを感じて。でも、企業にいる人は決して悪者じゃない。誰が悪いのか? それは、僕たち消費者かもしれないけど、もっと言うと、資本主義っていう大きな依存せざるを得ない仕組みに僕たちは生きていて、そこを抜本的に変えないといけないと思ったのです。
■SDGs達成の鍵は、企業ではなく個人
山下:3年前に「僕がアクセンチュアを辞めた理由」というブログを書いたのですが、自由を求めて「社会のために」と思ってやっていたんだけど、結果的に歯車のひとつになってしまった僕自身のジレンマを書いたものです。鎌倉に引っ越して自然とともに暮らしたり、ヨガとかサーフィンとかをやっていくことで意識も変わっていって、会社を辞めたあとはパーマカルチャーや農業を学んで、それをビジネスや経済に応用できないかとずっと考えてきました。
このSDGsのテーマにかかわることなんですが、この2年間、ヒッピーたちと日本中、世界中をキャラバンして築いたのが「NuMundo」というプラットフォームです。自分たちで暮らしをつくるようなエコビレッジなどを集めた、Airbnbみたいなサイトです。「NuMundo」を通じて、農業とかアースバッグ建築とかを手伝うかわりに無料で泊まるとか、そういう体験ができます。そこには、100人で家族をつくっているコミュニティがあり、自給率1000%でお金を使ったことがない人もいる。そういう場所に大企業の人が行って実際に新しい生活体験をすることで、「自分たちはすごいせまい世界の中に生きていたんだな」ということに気づく。結論として、企業を変えることよりも消費者である自分たちの意識を変えなくちゃいけないということで、こういう活動をしている。
企業はSDGsを戦略にしています。コンサル会社は「これが、これからのグリーン経営です」「CSRじゃなくてCSVですよ」っていう戦略として企業に落とし込んで、それを売り物にしていきます。それは、企業ができることとしては必要な部分もあると思うんだけど、「やらなきゃいけない」という戦略やビジョンは、そこに所属している社員にとっては結局「自分ごと」じゃないんです。あくまで仕事。個人と全体の断絶があって、たとえば家庭のなかでどれだけ平和的に奥さんとコミュニケーションできているかとは完全に分離していたりします。
僕は、SDGsの達成は、いままでみたいな戦略ありきとかトップダウンじゃなくて、掲げていること自体を個人個人が実感をもった生活や日常にどれだけ組み込めるか、三人称じゃなくて一人称でどれだけできるかにかかわってくると思う。自分たちの体験としてとらえていかないと、本当の意味で社会は変わっていかないんじゃないかと思う。「NuMundo」というプラットフォームができたので、僕は企業の人をどんどん現地に連れて行って、リーダーシップ研修とかクリエイティブ研修をやっている。そういうことを通じて、はじめて会社に戻ったときに今までと違う意思決定が具現化できるんじゃないかと思う。
■企業を内側から変えるには?
柿内: Oxygenというメディアで物を書かせてもらっています。いま26歳で会社にも勤めているんですが、まだ経済的にも社会的にもとくに何もできないという状態で、モヤモヤを抱えた代表として、今日はモデレーターをさせてもらえればと思っています。いままでのお話をうかがって、やっぱり個人の意識を変えていかないと動いていかないというところで、とはいえ、たとえば僕がいま会社のなかで何ができるんだろうというのがあります。個人レベルで企業を内側から変えていく方法って何があるのかな、というのを聞きたいと思いました。
近藤:難しいですよね。僕はずっと広告会社という大企業にハッキングしたアクティビストというか、異分子のような感じですが(笑)、企業も、社会もそう簡単には変わっていかない。そんな中で、山下くんのように企業の社員を研修に連れて行って強制的に体験させて変えていくというのも1つの方法だと思うし、僕は僕で社内外で似たことをやってきた気がします。
大企業でも、意識が高い人、面白い人が、一部だとしてもいるんですよね。そういう人たちとつながって仲間になってアメーバのように動いていく。僕自身、社内でそういう仲間にサポートしてもらっているし、外部から面白い人を呼んできて社内の意識を変えていこうとしてきました。そうやって個人として、会社員として両方で草の根運動をやり続けてきたなかで、時代そのものが大きく変わってきたのを感じています。
山下:そういう意味では、僕たちはいま「かくめい業界」という業界をつくっているんだけど、大企業やNPO、アクティビスト、あるいはヒッピーとかアーティストみたいな各領域の人たちの中でも、やっぱり新しいセンスを感じている人と全然そうじゃない人がいる。
新しいセンスを持った人たちで領域を超えたコミュニティやネットワークをつくっていくことがすごく大事。それがいま実際にでき始めている。ハッカー文化とヒッピー文化が西海岸で結びついて新しい文化ができていっているのもそうだし、そういうクロスボーダーを意識している。
僕はいきなり「B2B」というのはハードルが高いという実感がある。企業で僕の研修をやろうとすると、人事にしてみれば社員が辞めるリスクを高めることになるんですよね。個人が目覚めてしまうと辞めるかもしれないので、そういうものに企業としての予算はつきづらい。でも逆に、僕がやろうとしていることがわかる人たちは勝手に研修に来てくれる。その人たちは自分たちが変わるために、企業を手段にして自分で金をひっぱってくる。さらに、企業のなかで伝道師のように勝手に広めていってくれるんです。この自分が主体者になって企業を変革していくというパラダイムシフトがとても大事なんです。
このあとのトーク(#2)に出てくるけど、革命的ハッカーの河崎純真くんが言っている例がわかりやすくて、我々は資本主義という大黒柱がしっかりと立った家の中に生きているんだと。これを改革しようといっても、いきなり大黒柱をばこーんと倒したら下にいるみんなが潰れてしまうわけですよ。だから、それはできない。
彼が言うのは、周りに新しい全然違う建築をぼこぼこと100戸くらいつくっていけばいいと。それはやれる人がやればいいんですよね。つくっていくうちに「おっ、なんかあっちに面白い家が建ってきたぞ」って、全員じゃなくても徐々に気づいた人から移住していく。そうすると、結果的にもとの家がいらなくなる。そういうアプローチなんじゃないかなって思う。
近藤:それには、すごく共感しますね。理念やビジョンも大切だけど、それに共感してもらうには、実際にモデルケースをつくってしまうのが一番説得力があるんじゃないかなと感じてます。
僕は、自宅兼シェアスペース「KYODO HOUSE」をつくって、そこで都会の持続可能な暮らし方を実験しながら発信しているんですけど、あまりストイックになりすぎず、「なんか楽しそう、おしゃれ」に見えることは意識しています。70年代の活動家みたいになってしまうと「あの人は意識高い系、ヤバイ人」って思われちゃうんで、あまりそういうところを出さないようにして、「ガーデニング」「味噌づくり」とか、入っていきやすい、素敵な感じを大切にしている。もちろん、背後には思想があってアクティビストなんだけど、そこら辺は相手に合わせて、初めはあまり見せないようにしています。
■組織から一歩外に出たときに
松浦:おしゃれって大事ですよね。「環境保全団体」て言った途端に、なんかダサくて(笑)。私も前はコンサル会社にいて、世の中がなんとなくムーブメントで動いていくのを見ていました。「みんな自分で考えないんだな」って思っていた自分がいちばん企業の色に染まっていて、自分で考えていなかった。それから転職してコミュニケーションの世界に飛び込みました。
気づいたのは、組織のなかにいると組織の人になっちゃうけど、組織や会社から一歩出たら外側の人になれるということ。たとえば自分の会社は認証制度に取り組んでくれなくても、自分は認証制度の商品を選ぶことができる。そういうスタンスで個人が力をもっていけば、もうちょっと世の中動いていくのかなって思う。
雨宮:法人格っていうのは日常のなかでもそうとう幻想的な概念で、企業経営というものが日常において成立しているのは実はすごいマジカルなことだなって思います。法人格自体を対象にするというのは、そういった意味でもひとつ困難なことで、そのなかにいる個人同士の文化間交流や対話で意識が変化し、伝搬し、結果的に企業が変わったっていう流れのほうが自然ですよね。
近藤:会社っていうと、なんだか大きすぎるイメージがあるけど、結局はそのなかにいる個人が相手なんですよね。僕もいままで仕事であらゆる業界を担当してきたけど、先方の会社に一人でも熱くて面白い人がいると、「これはいける!」って思う。だけど、先方が顔の見えないような人ばかりが10人だと「これはちょっとダメかも」ってなる。志や熱意を共有して一緒にやれる人がいるかどうかは大きい。
雨宮:そうやって個人個人がつながっていって何かができて、そこから変わっていくのがひとつあるとして、そのうえで、企業体、法人としての役割というか、やるべきことはどういったことがあるのか伺いたいです。
近藤:企業ってやっぱり社会に与える影響が大きいと思うんですよね。山下くんの話にもあったように、ペットボトルの水の会社などは僕も担当してきたけど、山でいくらでも出てくる水を勝手に買い占めて売っているわけで、本当のことをいえばサンフランシスコのようにペットボトル自体を販売禁止にするべきなんですよ。
企業が社会に与える影響がとても大きい分、企業はその影響をちゃんとコントロールする責任があるはずなんです。いまは確実にそういう流れになりつつある。そして内閣が国民の声を気にするように、企業は消費者の声をとても気にする。だから、僕らは買わないようにするとか、本当にいい商品を選ぶ基準を伝えていくなど、どんどん声をあげていくことが大切だと思います。
松浦:企業に行って、組織対組織でお話しすると「お金がかかることは、なかなか頑張れない」と言われる。でも、「消費者から声があがってきたらすぐにでもやる」と言われることも多いんですよね。だから、自分が企業の殻を脱いだときに、一消費者として何ができるのか。たとえば、地味だけどお客様カードを書いてみるとか、こういうもの買いたいんだけどって声をあげてみるとか……。
近藤:そうですね、企業は消費者の声をほんと気にしますから。
松浦:日本人って声をあげるのをためらうというか、「ワンノブゼム」(One of Them)になることに安心感を覚えますけど、そのゼムがどういうゼムなのかが大事で、自分がそのゼムをつくるという感覚でいると、企業が責任を果たす助けになると思う。
■企業を手段にやりたいことを実現する
山下:僕はラディカルな立場なので、改革論から考えた時に、やっぱり大企業の改革はいちばん最後になっちゃう。要は、大企業も、国の政策や税金の仕組みとかによって戦略の方向性が変わってくるわけです。消費者によっても変わっていく。社会に大きな影響力がある一方で、ある意味上場している大企業に“本物の意思”を追求することは非常に難しいことだと思う。様々なステークホルダーによって成り立っているのが大企業なので、どうしても「守り」にならざるを得ない。
「攻め」という意味では、企業を変えていくためにも個人だと思う。アースデイ東京にも、セールスフォース・ドットコムという企業がブースを出していますが、セールスフォースは和歌山県白浜町に素敵なサテライトオフィスをもっていて、働き方改革をけん引しています。でも、そのオフィスがなぜできたかと言うと、ある社員が「田舎に移住して豊かな暮らしをしたい」と言ったことを社長がたまたま覚えていて、「お前、働き方改革やってみる?」「やります!」で、始まったんです。
個人がアノニマスな存在になる会社のなかで、「こうあるべき」という風にやっていてもダメで、「自分はこうなりたい」「こういう生活をしていくんだ」っていうのをもった人たちが現れて、会社を手段にして実現していくことで、その会社を変えていく必要がある。
近藤:ソニーで働き方改革として長野にコワーキングスペースをつくってパラレルワークをしている友人がいるんですけど、元々アウトドア好きで自分が住みたい場所に出会ってしまったところから、会社にコワーキングスペースを作らせてくれ、パラレルワークを認めてくれってかけあったんですね。やっぱり個人のモチベーションから始まりますよね。
雨宮:個人が所属しているセクターのなかでも企業はすごく影響力の高いものです。その環境によって個人の感性や意識がかわることもあると思うのですが、そういう事例は何かありますか?
山下:その質問に直接つながるのかわからないですが、渋谷に「Cift」というコミュニティがあるんですね。僕もその一員なんですけど。東急不動産の物件で、そこでクリエイターというか、経営者だったりフリーランスだったり、ちょっと面白い数十人がひとつの村みたいな感じで暮らしています。そのなかには、たとえばソニーのプロダクト開発をやっている人とかもいます。
何をしているのかというと、イノベーションを起こすと言ったときに、企業という三人称的なものを対象にしても、それは部分的なものでしかないですよね。でも、生活っていうのは全体だし、自分そのもの。それをアップデートして最高にクリエイティブな暮らしを自分たちでつくっていけば、本当の意味でイノベーションが生まれるだろうと。
SDGsに関しても、そのコミュニティのなかでSDGsのゴールを体現した生活を自分たちで実現して、新しい生活者市民としての文化をつくっていく。そして、それを僕たちは企業人でもあるので、どんどん企業にも波及させていく。そういう形で、自分が生活者であるというところを主体的にとらえて、そこから企業を変えていくというムーブメントをやっていきたい。
雨宮:住空間を選ぶことで個人の意識が変わっていくというのはありますね。一方で、トップダウンの企業で主体的な選択がしづらいマインドセットになっている人もいると思います。そういう人たちが主体的になっていくには、どういった梯子が必要でしょうか。
近藤:自分の勤めている会社で主体的な選択がしづらいなら、まずはシェアハウスに住んでみるとか、いくつか他のコミュニティに属してみると、そこが仲間を見つけたり、刺激を受ける拠点になる。そういうところで、マインドセットを変えていけばいい。
そもそも、いま日本の大企業って、ほとんどが勢いを失っている。「GAFA」(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれる、たった10年か20年の間にできた会社が世界の4強になっちゃっている。日本の大企業も、もともとは「三方良し」のようないい企業理念をもっていたのが、いつのまにか大企業病になって停滞して、衰退に向かってるところが多い。
GAFAは、それぞれにいい企業理念をもっているんですよ。強い会社ほどSDGsを掲げていたり、そういう会社のほうが伸びている。だから、自分もその「いい側」になってしまえばいい。そういう会社にいないのだったら、自分個人がそうなって仲間を増やしていけばいい。
雨宮:グローバル化とか、プラットフォームビジネスという部分では、日本の立場はなくなってくる。どちらかというと、江戸時代に近い感じで、文化的でアーティスティックな国になっていくべきだろうなと思います。昔の日本のサステナブルな暮らしのように、「適正テクノロジー」を使って、身体感覚のなかで自分の暮らしをつくっていくとか。
近藤:まさに先日、江戸東京博物館で「受け継ぐ美意識」「サステナブルな暮らし」をテーマにイベントをやったんですけど、江戸時代は世界にも誇れるようなサステナブルな文化があって大衆文化が華開いた時代なんですよね。一方で館長の藤森照信さんから、そういう知恵や思想が浮世絵のような「美」として定着するのに200年かかったという話があった。僕らもエシカル、サステナブル、SDGsなどを新しいジャパニーズスタイルの美やスタイルに高めていくことが求められているんだと思う。それによって伝播しやくなるし、文化として定着していく。
■これから大事になってくること
雨宮:さて、そろそろ時間になってしまったのですが、最後に一言ずつお願いできますしょうか。
近藤:さっき言ったように、SDGsとかを、新しいジャパニーズスタイルや美として定着させて発信できていければいい。僕自身も個人としても仕事でもそういうものを創っていきたいし、そうすることで日本から世界に広がっていくと思う。
山下:エコっていう文化は、僕らの前の人たちが脈々とつくってきた流れ。ヒッピーたちが一回失敗してきたところを抜けるポイントになるのは、合理性とか科学を獲得した企業人としての経験もあるような人たちだと思う。もう一回、循環とかサステナブルというところに戻っていくときに、そういうものの大事さを言語化できたり、それをパワフルな経営手段としても使えるようになったりできるはず。
企業人のエッセンスと江戸的なマインドの両方を多次元で昇華させていくこと、企業人としての自分と一消費者としての自分を統合させていくことが、これから大事になってくるんだろうと思う。
松浦:さっき日本の大企業はほとんどダメだと言う話がでましたが、たとえばパナソニックでは、社食にMSCとASCの魚を使い始めたんですね。企業として利益を上げていく立場でありつつも、社食という生活に密着したところに取り組んだことは大きい。
会場のみなさんも、日々生きているなかで、どこにコミットしたら自分の生活を変えられるのか、環境やSDGsにコミットできるのかというのを考えていくと、きっと企業のなかでも声を上げられるようになっていくと思います。
雨宮:今日はありがとうございました。