「もう一度知りたい『アースデイ』(その1)」では、アースデイ誕生から現在に至るまでの歴史を振り返りました。今回は、アースデイ東京の立ち上げからかかわる谷崎テトラさんに、未来に向けて私たちが出来ること、そしてアースデイ東京の役割についてうかがいます。
「想像を超えるスピードで、深刻な事態が進んでいた」
――いまでは毎年10万人が集まる日本最大のアースデイイベントとなった「アースデイ東京」ですが、2001年にアースデイ東京が始まった背景について教えてください。
谷崎:僕はTV・ラジオ番組の放送作家を30年近くしているのですが、長く環境番組をつくってきたなかで、地球環境というのが本当に危機的な状況だということがわかってきました。1997年に地球温暖化防止京都会議(COP3)が開催され、気候変動が大きなテーマになったわけですけども、取材を重ねるうちに僕たちが思っている以上のことが起きていることに気づきました。たとえば、南太平洋にあるツバルという海面上昇で沈みつつある島国の取材にも行きましたが、僕たちの想像を超えるスピードで深刻な事態が進んでいました。
かつての環境運動は、企業が起こす公害に市民が反対するといった、わりと善悪がはっきりしているものだったんですけども、気候変動の問題は僕たち消費者が加害者でもあります。だから、僕たち一人ひとりの消費者に訴えかけないと解決されない。僕たちの生活そのものの質を変えていかないといけないし、価値観を変えていかなくちゃいけない。そのための入り口として、2001年にアースデイ東京を立ち上げました。環境や気候変動のことに興味をもつ最初の一歩がとても重要だと思ったからです。
実は、日本でも1990年から市民団体が集まって、日比谷公園などでアースデイの集まりをしてきていたのですが、2000年頃にひと区切りがありました。いまのようにアーティストや企業、学生まで広く巻き込んで、多くの人が参加できるような形になったのは、2001年に代々木公園で始まったアースデイ東京からです。
「本当にもう地球はもたないのか?」
――もう一度知りたい「アースデイ」(その1)でも触れましたが、このままでは私たちの暮らしは持続不可能だという学者による未来予測があります。
谷崎:国連の人口統計では、21世紀中に人口が100億に達すると言われています。しかし、その前に食料や資源が枯渇していくというようなことが見えてきました。いままでのやり方のままだと、そうなっていくということがわかるわけです。じゃあ、地球の食料が本当に足りないのか、水が本当に足りないのでしょうか。
僕は多くの科学者に「もう地球はもたないのか?」と聞いてまわってみました。実は、多くの科学者が、もし私たちが資源を奪い合うのではなく分け合い、エネルギー消費を変えていくことができれば、サステナブルな社会に移行することは可能だと話しています。
ただ、「いまのままのやり方」ではダメなんですね。そのためには、経済や社会のあり方、個人の消費活動も含めて変える必要がある。そして、これは国連や国に任せておけば解決するという問題ではありません。企業や市民、学生、アーティストなど、それぞれの立場からアクションを起こしていくことが必要です。
「いま、私たちにできる方法が2つある」
――いまの仕組みを変えないといけないという危機感をもつことが必要ですね。
谷崎:たとえるなら、この地球は「沈みゆく船」のようなものです。沈もうとしているのは間違いない。しかし、一気には沈みません。そのことが問題をいっそう複雑にしています。
現時点では、船底に近い二等船室には水がどんどんと入ってきている状況です。さらに、一等船室にも水がはいろうとしている。そこからなんとか特等船室に逃れて助かろうと一等船室同士で争い合っています。それはちょうど、世界各地で資源をめぐる争いが起きているのと同じ状況です。
一方で、特等船室にいる世界で最も裕福な人たちは、船室の内側からきっちりと鍵を閉め、シャンパンパーティを楽しんでいます。船は全部沈むのではなく、人口が減ったとしても裕福な層は生きのこる可能性があります。だから、特等船室にいる人たちは、最後まで手を動かさないかもしれません。
こうした状況から助かるために、いま私たちにできる方法が2つあります。ひとつは、船がどのくらい危機的な状況なのかを情報共有して、船室に関係なくすべての乗員で船から水を汲みだす対策をする。それが「パリ協定」(気候変動抑制のため、温室効果ガス排出についての各国の取り組みを決めたもの)や「SDGs」(17の目標と169のターゲットからなる持続可能な開発目標)のような国際的な取り組みの実現にあたります。
もうひとつは、救命ボートをたくさんつくってつなげるという方法です。つまり、それぞれの地域で持続可能な食やエネルギーを自給する小さな共同体をつくること。そして、この救命ボートの作り方(エネルギーや食などの自給方法)を共有していくことも大事です。まさにアースデイは、こうした情報共有の場でもあるのです。
新しいテクノロジーとイノベーション
――テトラさんがかかわっている「ワールドシフト」の活動についても教えてください。
谷崎:2009年9月に、システム哲学者アーヴィン・ラズロ博士が代表を務める「ブダペストクラブ(世界賢人会議)」が「ワールドシフト(持続可能な社会への転換)」の緊急提言を行って、世界的なムーブメントが始まります。それに呼応する形で、「ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン」(http://www.worldshift.jp/)を立ち上げました。
いま地球の課題というのは、100以上あると言われているんですね。22世紀まで僕たちが持続できない理由が100以上もある。それを大きく3つに分けると、ひとつは環境・生態系の危機、経済の危機、そして社会の危機、これには戦争や貧困も含まれます。この3つの危機が複雑に連携しています。
地球環境の問題は、もう「環境にやさしいことをすればいい」というレベルでは間に合いません。経済の仕組みを変えないと環境はよくならないし、社会の仕組みを変えないと暮らし方も変わっていかない。それには価値観を変えていく必要がある。環境だけではなくて、文明そのものの転換、価値観の転換ということをテーマにしたのが「ワールドシフト」の活動です。
最近では、たとえばブロックチェーンの技術をつかった新しい経済の仕組みなど、新しいテクノロジーをどう倫理的に使っていくのかということも重要な議題になってきています。ここ数年で社会のあり方が大きく変わってきていて、あらゆる領域、セクターが相互に交流しながらイノベーションを起こしていかなくてはいけない状況になっています。そのときにまず「地球の未来」を前提に考えるということが大事なのです。
「アースデイ東京は、気づくための『最初の一歩』」
――アースデイ東京が始まってから18年目です。いまアースデイ東京の役割については、どう感じていますか?
谷崎:アースデイ東京は環境運動や社会について気づくための「最初の一歩」だという思いは、立ち上げのときから変わりません。会場には、何百という出展者がいて、何百種類ものアクションが集まっています。食、オーガニック衣料、エネルギーなど、さまざまな活動をしているNGO、企業、市民グループ、個人がいて、会場に来ることで情報が得られるし、仲間やつながりをつくることもできます。アースデイ東京を入り口にして得た気づきを、それぞれが深めていけばいい。
私たちは365日、この足元にある地球とともに生きています。だから、「EVERYDAY EARTHDAY(毎日がアースデイ)」なのです。そのなかでアースデイ東京というのは、年一回、みんながそれぞれの情報を持ち寄って集まり、つながり直すための場です。「ワクワクする未来って、どんなものだろう」といっしょに考える場であり、社会を変える運動でもある。そして、地球の未来を考える人たちが集まるパーティでもあるのです。
【谷崎テトラ】放送作家、一般社団法人ワールド・シフト・ネットワーク・ジャパン代表理事、京都造形芸術大学・創造学習センター教授ほか。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ、WEB番組、出版、イベントの企画・構成を通じて、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&キュレーターとして活動中。音楽制作やさまざまなユニットでのLIVE、DJも行う。