4月22・23日に開催される「アースデイ東京2017」。その企画の一部をいち早く紹介するとともに、運営にかかわる人の想いを伝えます。
今回は、「TOKYOジビエ~東京で狩猟の世界を体感する~」のテーマでトークを行う‟サラリーマン猟師“の小川岳人さんに、活動についてうかがいました。
(写真提供:幡野広志 http://hatanohiroshi.com/)
都内でサラリーマン、週末は猟師
――小川さんは、平日は都内で会社員、週末は猟師という‟サラリーマン猟師“として活動されています。2013年にあきる野市(東京都)に移住したのは、狩猟が目的だったのですか?
いえ、違うんです。移住のきっかけは、3.11の東日本大震災でした。そのときは東京の街なかに住んでいたんですけど、スーパーから食べ物や水がなくなり、大変な思いをしました。もし、また大きな地震がきたら、都会に住んでいるのはリスキーだな、と思ったんです。
だからといって、いきなり地方の田舎に移住するのは、仕事に就けるのかが心配でした。勤めている会社にそのまま通勤できて、いざとなったら自分で食糧調達ができる場所はないかと考えて選んだのがあきる野市です。
あきる野市は、東京なのに里山があって、都会との距離感がすごくいい。川下りが好きだった時期があって、前からよく遊びに来ていました。きれいな水も湧いているし、災害が起きてもここなら乗り切れると思いました。
――最寄りのJR武蔵五日市駅までは、新宿駅から1時間半くらいですね。山や川が近く、いっきに景色が変わります。ここで、どんな風に猟をしているのですか?
地元の猟友会に加入して、主に週末・祝日、「巻狩(まきがり)」というグループでの狩猟を行っています。巻狩とは、山を囲むように鉄砲をもつ人を配置して、獲物を犬と人で追い込んで撃つ方法です。猟期は11~2月ですが、僕は有害鳥獣駆除のメンバーでもあるので、猟をするのは1年中。早朝から集まって、冬にはマイナス4度とか3度のなか、じっと3時間以上待つこともあります。
このほかに、「罠(わな)猟」という手法もあります。僕は鉄砲を撃つより、こっちのほうが好きなんですが、ワイヤーで出来た獲物の脚をかけるタイプの罠や、箱型タイプの罠を仕掛けるやり方です。獲物がかかったかどうかを、毎日確認しに行かないといけないので、会社に行く前の早朝とか、夜に帰宅してから見まわりに行っています。
いま30代なので仕事も忙しいときだし、子どもが小さくて育児もあるので、時間的には正直つらいと感じることもあります。ですが、サラリーマン生活のストレスが、山に入ると不思議と浄化されるような感覚があって、忙しいときほど「早く山に行きたい! 猟をしたい!」と思います。
猟をすると、山全体が感じられる
――そういえば、小川さんのブログに、肉のドリップをとるために、赤ちゃんの紙オムツにいれて保存する写真があってビックリしました。イクメンならではの発想でしょうか……。ところで、そもそも猟を始めたきっかけは?
もともとアウトドアが好きだったんですが、「サバイバル登山家」の服部文祥さんが猟をしていて、自分もできたらいいなという憧れがありました。千松信也さんの『ぼくは猟師になった』という本を読んで罠猟のことを知り、これなら出来るかなと。
狩猟免許をとったのは、こっちに引っ越してからです。猟友会には若い人がいないので、けっこう歓迎されました。猟をするときに、山にイノシシがいるかどうかは足跡で判断するのですが、その見方も猟友会で教わりました。足跡の向きが大事なんですが、難しいのは、昨日の足跡なのか一週間前の足跡なのかを見極めること。いまは大体分かるようになりましたが、最初はどれが足跡なのかさえわからない状態でした。
――小川さんにとって、狩猟の魅力はどこにあるのでしょうか。
僕の場合は、自然や山が好きだということの延長線上に狩猟があります。獲物がとれることも大切ですけど、山に入って痕跡を探しているだけでも面白い。変な話ですけど、イノシシの新しいウンコを見つけるだけで「おっ、近くにいる!」って嬉しくなるんです。山をずっと見ているので、季節をすごく感じます。春はタラの芽やフキノトウが出てくる。夏になると、独特の山のにおいが広がります。
狩猟は、人間がはるか昔からやってきたこと。暮らしの原点だと思います。狩猟をすると、森のこともわかるようになるし、深い目で、山全体を見るようになる。いまの経済社会でそれが何の役立つのかはわからないけれど、そういう経験や視点をもつことは、生きていく上で大事じゃないかと感じています。
「僕、なんでイノシシじゃないんだろう」
――狩猟を始める前と後で、何か意識は変わりましたか?
うーん、なんだろう……。こんなこと言っていいのかわからないですけど、狩猟を始めてから、人間がだんだん嫌いになっています(笑)。大自然の中で出会うイノシシや鹿って、すごいんですよ。「生きている」という姿を見せつけられる。かたや人間は、自分もそうですけど、セコセコと働いて生きていかないといけない。生命力の違いを感じて、「僕、なんで人間なんだろう? なんでイノシシじゃなかったんだろう?」って思うときはあります。
――体験イベント事業を行う「LIFE DESIGN VILLAGE」では、季節ごとにジビエや狩猟にかかわるイベントもやっていますよね。
「TOKYOジビエ」という名前で、2年前からあきる野市でイベントをいっしょにやっています。「東京の“村”でソムリエからワインとジビエを学ぶ会」、「秋川筏下り&焚き火deジビエBBQ」、「闇ジビエBBQ大会」など、ジビエや狩猟を身近に感じて、楽しんでもらうイベントを開催してきました。年齢を問わず誰でも参加できますが、いちばん多いのは30~40代でしょうか。単身で参加する人もいれば、子ども連れの人もいますよ。
――猟期には「罠シェアリング」もしているそうですが、これはどういうものですか?
「罠シェアリング」は、みんなでお金を出し合って罠を購入して、獲れた肉を山分けする仕組みです。狩猟を行うための基礎知識を学びながら、免許がないと出来ない行為以外はすべて行います。週末に集まって肉を解体して、いっしょに食べる。罠の見まわり状況は、Facebookで共有しています。
狩猟に興味はあっても、なかなか始められないという人が多いのですが、こういう形なら参加しやすい。いま正式なメンバーは9人ですが、Facebookのコミュニティには、20人近くが参加しています。都心からメンバーが定期的に通ってくることで、里山との交流も生まれたらいいなと思っています。
「食べること」「生きること」の意味
――猟を始めたことで、環境問題について気づいたことはありますか?
そうですね。たとえば、「ジビエ」と聞いて、多くの人がイメージするのは鹿とかイノシシだと思います。でも、このあたりだとタヌキやアライグマも獲れる。アライグマは、アニメの「あらいぐま ラスカル」がブームになって、ペットとして大量に輸入されたそうです。それが捨てられて、繁殖して山を荒らし、いまは「害獣」と呼ばれて駆除されている。普通は食用にしないので、駆除したら廃棄するだけ。これって全部、人間の勝手な都合ですよね。
「TOKYOジビエ」のイベントでも、こういう人間が引き起こした問題について伝えるようにしています。そして、獲れたアライグマは、みんなで美味しくいただく。狩猟は自然と触れ合うことでもあるし、ほかの命をいただくことなので、「食べること」や「生きること」の意味について考えるようにもなりました。
――なるほど。それでは、小川さんにとって「生きること」の意味とは?
うーん、意味なんかなくていいかな、と思ってます。あれ、なんか答えになっていないですよね……(笑)。でも、自然と向き合って猟をしているうちに、大きな意味なんかなくても、生きているということだけでいいんじゃないか、と思うようになりました。
トークでは「東京でこんな暮らしができる」を話したい
――これから、やっていきたいことはありますか?
あきる野市にアウトドアビジネスのプラットフォームをつくりたいと考えているんです。武蔵五日市駅前で「東京裏山ベース」というシェアスペース兼カフェをやっている人とか、現代版忍者をやっているおじさんとか、面白い活動をしている人たちが地域にいるので、そういう動きをつなげるようなことをやりたい。
都心は人口が多く、子どももたくさんいますけど、自然と触れ合う場所がないですよね。あきる野市なら、都心から日帰りで来やすい。ただ、自然の中で遊んだ経験が少ないと、どうしていいのかわからないという人もいる。だから、遊びの土台は少し用意する必要があると思うんです。狩猟もそのひとつ。将来的には、それを仕事にできたらいいですね。
――アースデイ東京2017では、小川さんはトークをされる予定ですね。どんな話が聞けるのでしょうか。
移住したきっかけや、いまの暮らしについて、狩猟を通じて感じたことなどについて話したいと思っています。環境について考えたときにも、電気を使わずに山奥で暮らせたらいいですけど、実際にそれをできる人って限られているじゃないですか。でも、僕の場合はサラリーマンだし、暮らしているところも一応、東京です。都内で働きながらでも里山でこんな暮らしができるんだ、という一例として話をしたいと思っています。